14.1.15

Umata motors & Kawasaki W1SA 1971 (4)


 在英時、BSAのA10を所有していた時期もありました。トライアンフの鉄ヘッドとアルミヘッドの乗り味の違いを味わいつつ、同年代の他のメーカーのバーチカルツインとも比べてみたい、という興味がありました。もし、まだイギリスに住んでいたらNorton ツイン(恐らくは650SS)、やAJSのツインなども試していたと思います。その車両のエンジンはスーパーロケット仕様で、若干ハイコンプレッションになっていました。一度腰上を開けてみた時に、A10の中で一番アツいロケット・ゴールドスターよりもバルブのサイズは小さかったことを覚えています。カムは確か確認しませんでしたが、前オーナー曰くスピット・ファイアーカムではなかったはずです。エンジンの特性としては、全域でスムーズに回るもので、どこかでパワーがぐっと盛り上がってくるのではなくフラットなイメージでした。扱いやすい、という言葉がぴったりくる一台。ノーマルのA10の見た目はボッテリしてるので、トラのスタイリッシュさの影に潜んでしまうのも事実。プレ・ユニット期のトラと思うとまだまだ手が届きやすい、50−60年代前期のバイクとしては狙い目のように感じます。ユニットのBSAは更にその感が強くなりますね。外装の雰囲気の好き嫌いがかなり別れてしまう気がしますが・・・僕が所有していたものは、入手してから少し手を加えて、違うモデルのメッキタンクや、オフロードタイプのハンドル、セミダブルシートやアルミのマッドガードを装着していました。もう少しで、VMX(ヴィンテージ・モトクロス)に出場できるマシンに仕上げられたのに、と悔やんでいます。そうそう、クラッチ・マガジンのVol.8の表紙のマシンがこのA10なんです。

 BSA A10のエンジンデザインは「モーター」という言葉がしっくりくる無骨なもので、それはノートンツインも似た雰囲気の様な気がします。トライアンフの650ccのアルミヘッドのエンジンは、ヘッドの角張りとシリンダー部分の丸みを帯びたくびれとが実にうまく調和したものだなぁとしみじみ。外付けにされて、オイル漏れの元凶の一つと言われるプッシュロッドチューブでさえ「トライアンフらしさ」を表す大事なポイントで、メッキされているので全体にメリハリが出ていますよね。トライアンフ賛歌になってしまいましたが・・・いつか、一番アツい仕様のA10も試してみたいです。W1SAとの乗り味は、BSA A10とは全くの別物です。W1SAの方が、よりドラマがある、とでも言いましょうか。


 W1が登場した1965年は、BSAではもうギアボックスとエンジンが一体式の「ユニット」のA65が幅を利かせ、未だにギアボックスとエンジンが別体であるデザインはもう時代遅れでした。発電も重たいダイナモ仕様。クランクケースのタイミングサイドの「Y」型のデザインはBSA A10のそれを彷彿させるものでした。前時代的で、更に元ネタが明らかな日本製バイクを、わざわざイギリス人が買うとは思えません。イギリスでW1を見たことは、ほんの一度だけでした。そのイギリス人オーナーは英車、日本車の熱烈なファンで戦前戦後のスクエア・フォーを始め、戦前のVツインマチレス、ヴィンセントからブラフ、そして神社仏閣シリーズのHondaなど何十代台も所有している人でしたが、「このW1はすごいよ!A10なんか目じゃないぜ。」とW1を見つけた僕に熱く語ってくれたことが印象的でした。

 このW1というバイクは、その後マルチシリンダーが世を席巻する中、通称W3と呼ばれる74年まで生き延びた化石のようなバイクでした。それだけ愛される魅力があった、ということなんでしょうね。W1SAまでは、シートの裏には細かなスプリンが使用されており、サドルシートからの流れがまだ残っていました。スプリングが若干ヘタっているのか、コーナーを走行中に路面の凹凸を拾って、ボヨボヨと上下すると思わずスピードダウンをしてしまいます。笑 これも飛ばせない、いい理由の一つかもしれませんね!?

 W1、W1Sまでのカラーリングは、僕の中で「60年代」を色濃く感じますが、W1SAからは70年代テイストへと切り替わり、Z1などと並べると年代の移り変わりが一目瞭然です。Z1、Z2の市場での価格を比べると、W1SAは未だ手に届きやすい位置にあります。Z1、Z2が時代の寵児として抜きん出た価値を持つことも確かに理解できますが・・・W1系、特にW1SAは生産台数の多さと、比較的大事に乗られるバイクだったそうで、現存台数が多いことも価値がさほど急激に上がっていない理由のようです。オークションでは、コンプリート車をばらしてパーツで売ってしまう「バラシ屋」という商売が成り立ってしまうほど。年々、実働する個体が減っていってしまうのは何て寂しいことでしょうか。コンプリート車よりも、バラしたほうが手っ取り早く商売になるからだと聞きました。イギリスでは、戦前車や希少車のバイクで無い限り、クラシックバイクのパーツの供給が潤沢なので、このバラシ屋は成り立たないと思います。パーツだけ買えるのは有りがたくもありますが、解体されたバイクの元の写真を見ると、複雑です。


 話が大分逸れてしまいました。何が言いたいかというと、W1SAは60年代を色濃く感じさせてくれる車両ながら、70年代の足音も聞こえる、良い意味で中途半端な立ち位置にいるバイクだと思います。タイミングサイドのケースも、このモデルからデザインが変更され、カワサキの「W」とラインが誇らしく入ります。(それまでは「Kawasaki」と入るだけでした。) また、その片端の部分は、足との干渉を避けるためえぐられた形になっています。この気遣いに、日本人が作ったバイクなんだなーと嬉しくなったりします。日本の田舎道を走るために、地元の懐かしの焼き鳥屋にふらっと行くのにも、最高の一台です。


W1自慢へのお付き合い、ありがとうございました。

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